重症心身障害児の胃ろうとは?種類・管理・在宅ケアのポイントを解説

デイサービス

重症心身障害のある我が子に、胃ろうが必要と言われた。
そのような提案を受けたとき、戸惑いや不安を感じるご家族は多いかもしれません。

「胃ろうにすることで、子どもの生活はどう変わるのか」「自宅でのケアは、自分たちでできるのだろうか」そうした疑問を抱えながらも、どこに相談すればよいかわからず、一人で情報を集めている保護者の方も多くいらっしゃいます。

胃ろうは、経口摂取が難しいお子さんの栄養管理を安定させ、生活の質を支える大切な医療的ケアのひとつです。
正しい知識と適切なケアの方法を身につけることで、ご家族も安心して日々のケアに向き合えるようになります。

この記事では、重症心身障害児の胃ろうについて、その種類・日常的な管理方法・在宅ケアのポイントをわかりやすく解説します。

これから胃ろうを検討している方も、すでに在宅でケアをされている方も、ぜひ参考にしてください。

監修者:坂東 知子(ばんどう ともこ)

経歴
大阪急性期総合医療センター 救急病棟にて12年勤務。
実績
令和2年に「こどもデイサービスさくら」を設立。
現在は3事業所を運営し、これまでに50名以上の医療的ケア児・重症心身障害児の支援に携わる。
資格・専門
看護師・保育士
専門分野
・医療的ケア児支援
・重症心身障害児支援
・在宅医療・在宅ケア
・小児看護

胃ろうとは

参照:photoAC

胃ろう(胃瘻)とは、腹部に小さな穴(瘻孔)を開け、胃に直接チューブを通して栄養や水分・薬剤を投与する方法です。

正式には「経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)」と呼ばれ、口から食事をとることが難しい方の栄養管理手段として広く用いられています。

重症心身障害児の場合、嚥下機能(飲み込む力)の障害や誤嚥リスク、筋肉の緊張による摂食困難などから、経口摂取だけでは十分な栄養が確保できないケースが多くあります。

胃ろうを造設することで、安全かつ安定した栄養管理が可能になり、誤嚥性肺炎などのリスクを低減することができます。

経鼻胃管との違い

栄養を投与する方法として、鼻からチューブを通す「経鼻胃管(鼻腔栄養)」もあります。

経鼻胃管は手術が不要で一時的な使用に向いていますが、チューブが顔に固定されることへの不快感・誤抜去のリスク・長期使用による鼻や食道への負担、皮膚トラブルなどが課題となります。

胃ろうは造設に手術が必要ですが、チューブが顔に出ないため見た目への影響が少なく、長期的な栄養管理に適しています。

お子さんの状態や今後の見通しに応じて、主治医とともに最適な方法を選択することが重要です。

胃ろうの種類と組み合わせ

参照:イラストAC

胃ろうは、お腹の皮膚から出ている「外部ストッパー」と、胃の内部で固定する「内部ストッパー」の2つのパーツで構成されています。

それぞれ2種類ずつあり、お子さんの活動量やご家族の扱いやすさに合わせて計4通りの組み合わせから最適なものを選びます。

1. 外部ストッパー(お腹の外側に出る部分)

お腹の表面に出るパーツの形状です。

ボタン型

特徴:皮膚の表面にぴったり沿うボタン状のパーツです。栄養を投与するときだけ専用のチューブを接続します。

メリット:目立たず、入浴や着替えの際に邪魔になりません。お子さんが自分で引っ張って抜いてしまうリスク(自己抜去)が低いため、在宅ケアで多く選ばれています。

チューブ型

特徴:お腹から常に数センチ〜十数センチのチューブが出ているタイプです。

メリット:栄養投与の際に毎回チューブを接続する手間がなく、操作が比較的簡単です。

2. 内部ストッパー(胃の中で固定する部分)

胃の壁に引っ掛けて、チューブが抜けないようにするパーツの形状です。

内部ストッパーの種類特徴と交換頻度メリット・デメリット
バルーン型胃の中で風船(蒸留水入り)を膨らませて固定する。
交換目安:1〜2か月ごと
【メリット】交換時の痛みが少ない。訪問診療(往診)で自宅での交換が可能なケースが多い。
【デメリット】風船の破裂や固定水の減少により抜けやすい。
バンパー型胃の内部にプラスチック製のストッパーで固定する。
交換目安:4〜6か月ごと
【メリット】耐久性が非常に高く、勝手に抜けるトラブルが少ない。
【デメリット】交換時に少し痛みを伴うことがあり、基本的には医療機関(内視鏡室など)での交換となる。

胃ろうの日常的な管理

参照:photoAC

胃ろうを安全に使用し続けるためには、日々の丁寧なケアが欠かせません。

以下の管理を習慣化することで、トラブルの早期発見・予防につながります。

スキンケア(ろう孔周囲の皮膚管理)

胃ろうの周囲(ろう孔周囲)は、胃液や栄養剤による刺激を受けやすく、皮膚トラブルが起きやすい部位です。

毎日の清潔保持が基本となります。

・石けんを使って優しく洗浄し、十分にすすいでから乾燥させる。 
・肉芽(にくげ)・浸出液・においの異常がないかを毎日観察する。
・ガーゼや被覆材を使用している場合は、汚染・湿潤の状態を確認し適宜交換する。

皮膚に異常が見られる場合は、早めに担当の医師や訪問看護師に相談しましょう。

栄養剤・注入食の投与管理

栄養剤の種類や量、投与速度は主治医の指示に従います。

投与前後には必ずチューブの接続やろう孔の観察を行いましょう。

【QOLの向上】注目されている「ミキサー食(ペースト食)」の注入について

近年、重症児の在宅ケアにおいて、市販の経口流動食(栄養剤)だけでなく、家族と同じ食事をミキサーでペースト状にして胃ろうから注入する「ミキサー食」を導入するご家庭が増えています。

メリット

栄養剤だけでは起きやすかった下痢や胃食道逆流(胃の内容物が食道に逆流すること)が改善することがあります。

また、「家族と同じものを胃に入れてあげられる」という心理的な喜びも大きいです。

注意点

ミキサー食の導入は近年注目されている一方、衛生管理(調理から注入までの時間・保存方法)や誤嚥リスクについての注意が必要です。
チューブの太さ(Fr数)によっては詰まりやすくなるため、ミキサーにかける際の粒残りに注意し、ペースト状にする工夫なども必要になります。

導入する際はボタンやチューブの選定段階から主治医や訪問看護師、言語聴覚士(ST)などと相談してから始めてください。

投与前後・投与中のチェックポイント

投与前後には以下の点を確認しましょう。

投与前:チューブの接続がしっかりされているか、ろう孔(穴)の周りに漏れや赤みがないかを確認する。
投与中:嘔吐・腹部膨満・顔色の変化など、体調の変化がないかを観察する。
投与後:チューブ内を白湯で流し(フラッシュし)、栄養剤の残留を防ぐ。

投与速度が速すぎると下痢・嘔吐・逆流のリスクが高まるため、医師・看護師の指示を守ることが重要です。

また、投与後しばらくは上体を30〜45度に起こした姿勢を保つことで、逆流や誤嚥のリスクを下げることができます。

チューブ・ボタンの固定確認

毎日の管理の中で、チューブやボタンがしっかり固定されているかを確認します。

チューブが抜けかかっている・ボタンが回転しにくい・固定水の量が減っているなどの異常に気づいた場合は、すぐに医療機関に連絡しましょう。

バルーン型の場合は、固定水の量を定期的に確認・補充する必要があります。

担当の訪問看護師と管理方法を共有しておくと安心です。

在宅ケアで気をつけたいポイント

参照:photoAC

在宅で胃ろうケアを行ううえで、特に意識しておきたいポイントをまとめます。

入浴時のケア

胃ろうがあっても、基本的に入浴は可能です。

ろう孔が安定している場合(造設後おおむね1か月以上が目安)は、湯船につかることもできます。

入浴後はろう孔周囲の水分をタオルで押さえるように拭き取り、自然乾燥させることが大切です。
しっかり乾いたら、皮膚を保護するために「Yカットガーゼ」を挟むか、普通のガーゼをこより状にして胃ろうの根元に優しく巻き付けます。

入浴の可否や注意点については、担当医・訪問看護師に個別に確認しましょう。

体位管理との組み合わせ

重症心身障害児は筋緊張や姿勢の問題を抱えることが多く、栄養投与中の体位管理は特に重要です。

投与中・投与後の体位について、理学療法士や訪問看護師と相談しながら、お子さんに合った姿勢を決めておきましょう。

胃食道逆流が起こりやすいお子さんの場合は、投与後の体位保持の時間や角度について医師の指示を守ることが重要です。

緊急時の対応を事前に確認しておく

在宅ケアでは、万が一のトラブルに備えた準備が欠かせません。

以下のような状況が起きた場合の対応を、事前に主治医・訪問看護師と確認しておきましょう。

チューブ・ボタンが抜けてしまったとき

ろう孔は短時間で閉じてしまうことがあるため、抜去に気づいたらすぐに医療機関または訪問看護師に連絡します。
ボタン・チューブの完全抜去は夜間・休日に起きることもあります。
緊急時連絡先(訪問看護のオンコール、かかりつけ医の緊急連絡先)を前もって確認しておきましょう。

あらかじめ主治医と相談しておけば、穴(ろう孔)が閉じてしまわないための具体的な対処法など、お子さんの状態に合わせた指示を事前に受けられます。

嘔吐・逆流が起きたとき

栄養投与中または投与後に嘔吐・逆流が起きた場合は、すぐに投与を中止し、顔を横に向けて誤嚥を防ぎます。

症状が繰り返される場合は、投与量・速度・体位を見直す必要があるため、担当医に相談しましょう。

ろう孔周囲に異常が見られるとき

発赤・腫れ・膿・出血・強いにおいなどが見られる場合は、感染やトラブルのサインである可能性があります。

早めに医療機関に相談してください。

在宅ケアを支える支援サービスの活用

参照:photoAC

胃ろうを含む医療的ケアを在宅で行うにあたっては、訪問看護・訪問診療・相談支援事業所など、さまざまな支援サービスを組み合わせることが重要です。

訪問看護

訪問看護師は、胃ろうの定期的な観察・スキンケア・バルーンの固定水確認など、在宅でのケアを直接サポートしてくれます。

困ったことや不安なことをその場で相談できるため、保護者の精神的な支えにもなります。

訪問診療

かかりつけの医師が定期的に自宅を訪問し、胃ろうの状態確認や栄養管理の指示を行います。

急な体調変化にも対応してもらいやすく、入院の必要性を判断してもらえる体制を整えておくことが重要です。

相談支援事業所

胃ろうを含む医療的ケアが必要なお子さんの生活全体をコーディネートしてくれる窓口です。

デイサービスの利用・サービス調整・関係機関との連携など、保護者の負担を軽減するための支援を担ってくれます。

胃ろうにかかる費用と使える助成制度

参照:photoAC

胃ろうの造設・管理には医療費がかかりますが、重症心身障害児には複数の公的支援制度が適用される場合があります。

費用面の不安を一人で抱え込まず、使える制度を事前に確認しておきましょう。

造設手術の費用目安

胃ろうの造設手術(PEG)は健康保険の適用対象です。

健康保険適用後の自己負担は3割負担であれば数万円程度が一般的ですが、医療機関・入院期間・お子さんの状態によって異なります。

以下の助成制度を組み合わせることで、実際の自己負担額をさらに軽減できる場合があります。

使える可能性がある主な制度

① 小児慢性特定疾病医療費助成制度

対象疾患に該当する場合、医療費の自己負担割合が2割に軽減され、さらに世帯所得に応じた月額自己負担上限額が設定されます。

令和8年(2026年)4月現在、対象疾患は16疾患群801疾病に拡大されており、重症心身障害児の基礎疾患(神経・筋疾患・染色体や遺伝子に変化を伴う症候群など)が対象となるケースが多くあります。対象年齢は原則18歳未満(引き続き治療が必要な場合は20歳未満まで)です。

申請先はお住まいの都道府県・政令指定都市の窓口となります。

② 自立支援医療(育成医療)

18歳未満の身体に障害のある子どもを対象に、障害の治癒・軽減のための手術や治療にかかる医療費を助成する制度です。

身体障害者手帳の交付は必要なく、健康保険適用後の自己負担が原則1割に軽減され、世帯所得に応じた月額上限額が設定されます。(申請する際は申請先に事前確認をしてください)

胃ろう造設は「消化器機能障害」に関わる治療として対象となる場合があります。

申請は市区町村の障害福祉課で行います。(身体障害者手帳の有無に関わらず申請できますが、すでにお持ちの手帳や自治体の助成制度によって優先される手続きが異なる場合があります)

③ 障害者医療費助成(各都道府県・市区町村)

各自治体が独自に実施している医療費助成制度で、内容・対象年齢・所得要件は地域によって大きく異なります。

身体障害者手帳・療育手帳などを持つお子さんが対象となることが多く、医療費の自己負担がほぼゼロになる自治体もあります。

お住まいの市区町村の福祉担当窓口に確認しましょう。

④ 訪問看護の保険適用

胃ろう管理を含む在宅での医療的ケアに対する訪問看護は、医療保険または障害福祉サービス(居宅訪問型児童発達支援など)が適用される場合があります。

主治医・訪問看護ステーション・相談支援専門員と連携して確認しましょう。

費用面の相談先

どの制度が使えるかは、お子さんの基礎疾患・障害の状態・世帯所得・お住まいの自治体によって異なります。

「自分の子どもはどの制度が使えるの?」と迷った場合は、以下の窓口に相談するのが最も確実です。

医療ソーシャルワーカー(MSW)

入院・通院先の病院に常駐していることが多く、制度の案内と申請のサポートをしてくれます。

 相談支援専門員

お子さんの生活全体を把握したうえで、利用できる制度を一緒に整理してくれます。 

市区町村の障害福祉課・子ども家庭課

制度の申請窓口として直接相談できます。

まとめ

参照:photoAC

胃ろうは、重症心身障害児の栄養管理を安定させ、誤嚥リスクを低減するための大切な医療的ケアです。

種類や管理方法を正しく理解し、日々のケアを丁寧に続けることが、お子さんの安定した生活を支えることにつながります。

在宅でのケアは、ご家族だけで抱え込む必要はありません。

訪問看護・訪問診療・相談支援事業所など、専門家のサポートを積極的に活用しながら、無理のない体制を整えていくことが大切です。

胃ろうのケアに不安を感じている方は、専門スタッフへの相談先のひとつとして是非さくらもご活用ください。

参考文献

こども家庭庁「医療的ケア児等とその家族に対する支援施策」 https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/care-ji-shien/

重症心身障害児の胃瘻 ~造設からトラブル対応、ミキサー食注入まで~https://kcmc.kanagawa-pho.jp/data/media/kanagawa-pho/page/department/home_medical_support/2020_iryoucare3-2.pdf

子どもの胃ろう手術のメリット・デメリット、胃ろうにしてよかった?【経験談をご紹介】https://famicare.jp/2023/11/02/gastric-fistula-surgery-meritdemerit/#index_id2

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